朝、他人のいびきで目を覚ました。
体を起こすと同じベッドのすぐ側にはやたらと大きい見知った姿。
夕べ疲れたので少しばかり目を閉じたら、あっという間に眠ってしまったらしい。
彼の様子を見る。
ただ単に眠っているらしかった、やはりそれなりに身体に堪えたのだろう。
どうしてこのような状況になったのか、寝起きの頭で思い出す。
そうだ、あの一言から始まったのだっけ…。
「さあ、一時の逢瀬でも楽しもうじゃないですか。」
―もちろん、私の地下研究室で―
ことの発端は単刀直入すぎて曲解も何もなかろう。
「結婚して下さい。」
との先日の申し出にある。
意味はそのままだが、理由は幾分…いやかなり難ありである。
彼の愛くるしい旦那様から逃れる為だけの理由で、あの言葉を私に向けてきた。
偽装というにはあまりにも白々しく、誠意の欠片も感じられないプロポーズであった。
もちろん我等はそんな関係であるはずがない。
双方とも全力で否定できる上に、未来永劫結婚という事実はなかろう。
まあ、それは置いておいて言葉を発してしまった事実には変わりない。
目撃者も何人もいる。
だから、利用させてもらうことにした。
…脅迫にである。
王城からここまで連れて来るのに、それはもう苦労した。
「嫌ああああぁぁぁぁぁぁ、助けてええええぇぇぇぇぇ!」
まったく、何度絶叫を聞いたことか。
私の研究室がどんなものかそれなりに予想出来ているらしく五月蝿いことこの上ない。
強引に腕を掴んで引っ張っていく。
普段の彼を私が連れまわすことなど、あまりの力の差から出来るわけがない。
しかし、それでも何とか連れて行けるのは彼が私に弱みを掴ませてしまったからというただ一点にある。
どうせならば絶叫も止めて諦めてもらいたかったものだ。
そんな訳で研究室に連れて来た。
もちろん本来の意味での逢瀬ではない。
いや、私にとっては至福の時間か…。
以前より彼の薬物耐性の強さには興味を持っていた。
一度その分解能力と排泄能力のデータを取ってみたかったのだ。
そしてあわよくば少々強い妖しい薬を試すための実験台にさせてもらおうなどと考えていた。
まさに絶好のチャンスである。
「マジ、そこだけは勘弁してつかぁさい。嫌だああああぁぁぁぁぁ!」
地下には実験の為の器具が揃っていたのだが、階段の前に来ると恐怖心の方が勝ったのか大暴れをはじめてしまった。
私の地下室は他人を滅多に入れることがないのでよからぬ噂も多い。
建物を破壊されるのも困るので、仕方なく地下に連れて行く前に即効性の麻酔薬を筋肉注射する、とりあえず通常量の10倍。
それでようやく暴れる力が弱まった。
更に追加麻酔を繰り返し…抵抗しなくなったのは通常量の120倍を越えた頃だった。
しかし困ったことに地下まで運ぶには重すぎた。
階段から突き落とすわけにもいかない。
私はしぶしぶ地下でなくすぐ側の地上階の実験室…もとい診察室に連れて行った。
手足をベッドに縛り付け、点滴と麻酔、それから開発段階の妖しい薬を準備する。
作業途中に何度も目を覚ましそうになったので更に麻酔薬を追加。
我ながら殺してしまうのではないかと思うだけの量は打っただろうか、もしかしたら呪竜くらい昏倒させることができるかもしれない。
さすがの薬物耐性に感心しつつデータ取りをはじめた。
王城から連れて来るまでの苦労やつい先日の落城の際から復興までの疲れが溜まっていたのだろう。
データを取り終わってからほんの数分と思って横になったらそのまま眠ってしまった。
そして冒頭に戻る。
私も限界がきていたし、オプションをつけるには麻酔薬も足りなそうだったの縛り付けていたロープを解き解放する。
器具や暴れられた後を片付け、身支度を整える。
もう一度全身状態をチェックするが案の定異常なし。
やれやれとベッドに腰をかけた頃、ようやく彼は目を覚ました。
しばしボーッとした後、何を考えたのかガバッと身を起こす。
危うく傍らにいた私はベッドから落ちるところであった。
「…あれ…俺…。」
私を見るなりまた大人しくなる。
どうやら記憶が混濁しているらしい。
まあ、あれだけ大量の麻酔を打っては記憶に影響も出るし、ここに来た時点で意識は飛んでいるはずである。
そして何より試した薬の所為であることも間違いない。
「おはようございます。
やっぱり思っていた通り…いいえ、それ以上かしら…夕べは凄かったですわよ。
私すっかり疲れてしまいましたわ。」
微笑んで声を掛ける。
「でも、楽しかったですわよ?」
何のことか本人に分るはずもないが嘘は言っていない。
私は未だ呆然としている彼を残し、朝食の準備をする為に部屋を出た。
一泊泊めたのだから食事くらい出してやらねば。
PL:一度書いてみたかった冒頭と最後のベタな紛らわシリーズでしたヽ( ´ー`)ノ
お相手感謝、中々適役キャラっていないんですよね(笑)