世には動く者と動かぬ者がいる。
私はどちらかというと後者に属する。この出会いも移動してきた彼と、ルドルに居続けた私であるが故に起こったものだと認識している。
私はその日も常変わらず王宮の勤務を終えてテラスに立ち寄った。一仕事終えてテラスでお茶を飲むことは当時既に私の日課になっていた。いつも通りお茶を煎れようとティーカップの置いてある棚に向かい、一つだけ丁寧に洗われていてまだ乾いていないティーカップを見つけた。
テラスの中を見回しても人影はない。しかし、NLに住まう者の魔力の残り香…私が残像と呼ぶものは残っていた。どうやら入れ違いでテラスから出ていかれたらしい。
「またお会い出来ませんでしたか…。」
私が勤務を終えてテラスに足を運ぶ時間帯は他の方々よりも少々早い。それは肩書き付きの割には仕事が殆どない師団長という役回りであるが故で、同じように肩書きを持っていても内政や外交に従事していらっしゃる方々はそう遊んでばかりもいられない。まあ、軍人である私が暇だということは皆の生活が穏やかであるという印だ、閑職万歳。
代わりに、というわけでもないが私は暇は暇なりにテラスで誰かの話し相手になれればよいと思って早めに姿を現している。ルドルは人口が少ない為か王城に出入りする人も少ない。疲れて一休みしようとして誰もいなくては寂しかろうというわけだ。
先客殿の残像はここ数日よく出会うものであった。ご本人を会議室でちらりとお見かけした感じでは、闇の癒しを求めていらっしゃるご様子。それならばルドルは目的に合っているだろう。この国の闇は私にとっても心地よい。
同じように闇に紛れる者として、まったりと気軽にお話できるような茶飲み友達になれるだろうか。
残像にばかりでなく、早く直接お会いしてお話したいという思いが募る。
「…そういえば、以前もなかなかお会いできずに興味ばかりが大きくなってしまった方がいましたわ。
ようやくお会いできた時はずいぶんと嬉しかったですわね。」
私は一人苦笑してお茶を飲みテラスを後にした。
念願かなってその数日後直接お話できた。案の定楽しい方であった。そして私はルドルにいてよかったと改めて思った。動かずにこうしていつ起こるか分からない新たな出会いを待つのも悪くない。
そして、今も動き続ける彼に想いを馳せる。また、良き出会いがありますよう…何処の国の私と彼自身にとって…と。